脊椎機能改善上部頚椎・胸椎・腰仙移行部から考える関節運動の再構築
脊椎機能改善とは?
脊椎機能改善とは、痛い場所を単発でゆるめることではなく、脊椎全体の運動の配分(どこが動き、どこが支えるか)を見直し、関節の動きを再構築するプロセスです。GIFTメソッドの3つのアプローチの一つとして、トリガーポイント(T)や滑走(G)の施術と組み合わせて用います。
giversではArthrokinematic Lock(関節内運動ロック)とNeuro-control Lock(運動制御ロック)の2軸で整理し、上部頚椎・胸椎・腰仙移行部の3つの要所を中心に、低刺激から段階的に介入します。
監修:安藝泰弘(修士〈スポーツ健康科学〉/株式会社givers代表取締役CEO/PLOS ONE掲載研究者)
上部頚椎・胸椎・腰仙移行部から考える関節運動の再構築
脊椎の機能改善とは
脊椎の機能改善とは、痛い場所・硬い場所を"単発で"ゆるめることではありません。脊椎全体の運動の配分(どこが動き、どこが支えるか)を見直し、関節の動きを再構築するプロセスです。
giversの考え方はシンプルで、
「動くべきところが動かない → 代わりに別の場所が動きすぎる → 痛み・過緊張・可動域制限が固定化する」
という流れを、評価に基づいて断ち切ります。
要点(まずここだけ)
- 脊椎の問題は「局所」ではなく、運動の連鎖と配分で起きることが多い
- 評価の中心は、負荷が集中しやすい"要所"
- 上部頚椎(首の上の方)
- 胸椎(背中の背骨)
- 腰仙移行部(腰と骨盤のつなぎ目)
- 介入は、低刺激(MET・モビリゼーション等)→再評価を基本に、必要な場合のみ高刺激を選択
- 手技そのものより、「どの部位に・どの順番で・どの刺激量で」介入する臨床判断が価値
評価の中心となる3つの領域
上部頚椎(C0–C2):姿勢制御と回旋の要所
上部頚椎は、回旋・頭の位置の微調整に関わり、「首の動き+頭痛」の文脈でも重要です。首由来の頭痛の評価では、首の屈曲回旋テストや上部頚椎の動きの制限が評価項目として整理されています。
胸椎:動きの"配電盤"(首と腰の間で負荷を分散する)
胸椎が相対的に硬くなると、首・肩甲帯や腰に代償が出やすい。首の痛みのガイドラインでも「首と上部胸椎の動きの制限」は評価項目として扱われています。また、胸椎への施術が首の痛み・機能に短期的に有利だったという研究のまとめもあります。
腰仙移行部(L5-S1〜仙腸関節):荷重伝達の"関所"
腰仙移行部〜仙腸関節(SIJ)は、上半身の荷重を下半身へ伝える"伝達装置"です。大きな力を伝える一方、動き自体は小さいため、わずかな破綻でも影響が出やすいと整理されています。
こんなサインがあると
「脊椎機能(配分)」が関与しているかもしれません
- 痛い場所が一定せず、首→肩甲骨の間→腰のように移動する
- "そこ"を揉むと一時的に楽になるが、同じ動作でまた戻る
- 動きの最後で必ず詰まる/回旋が片側だけ出ない/反ると腰だけで反ってしまう
- 立位より座位、あるいはその逆で症状が変わる
- 首が回らないだけでなく、胸椎が固い・肩甲帯が乗らない感覚がある
なぜ動かなくなるのか:
2つのロック
脊椎機能の問題は複雑ですが、臨床でブレないために2つの軸で整理します。
Arthrokinematic Lock(関節内運動ロック)
関節の中の動きが詰まっている状態
定義
関節の遊び(joint play)や、滑り・回旋などの関節内の動きが低下し、節ごとの運動が"詰まる"状態。
- 胸椎の相対的な硬さ
- 上部頚椎の回旋の詰まり
- 腰仙移行部(仙腸関節周辺含む)の微小な運動の破綻
これが起きると、動きを作るために身体は別の場所で代償し、周囲の筋肉の過緊張や痛みが固定化しやすくなります。
介入の狙い
関節包・筋緊張・神経入力のバランスを整えながら、必要な節に必要なだけ"滑り"を戻す。
Neuro-control Lock(運動制御ロック)
身体が"固める・逃げる"戦略を選んでいる状態
定義
痛み・不安・過緊張・感覚入力の偏りによって、身体が"安全戦略(固める・逃げる)"を選び、動きの配分が崩れ続ける状態。
首の痛みの評価でも、筋力だけでなく首・肩甲帯・胸郭の運動制御(motor control)の問題が所見として整理されています。
介入の狙い
施術で"通り道"を作ったあと、運動で再学習し、戻りにくさを作る。
①と②はどう関係する?
関節内の動きが詰まる(①)ほど、身体は固める(②)戦略を取りやすくなります。
固める(②)ほど、関節内の"微小な滑り"はさらに出にくくなります。
つまり、どちらか一方だけを狙うと戻りやすい。
施術(①)+運動(②)をセットで設計する理由がここにあります。
比較テーブル(要点だけ)
| 項目 | ① 関節内運動ロック | ② 運動制御ロック |
|---|---|---|
| 主な原因 | 節の滑り・回旋・遊びの不足 | 固める戦略・筋出力タイミングの崩れ |
| 体感 | "そこ"で詰まる/同じ角度で止まる | 動き出しが怖い/力みが抜けない |
| 主なターゲット | 上部頚椎・胸椎・腰仙移行部など"要所" | 深層筋・呼吸・姿勢制御 |
| 介入の第一手 | MET/モビリゼーション等 | エクササイズ/動作教育 |
| ゴール | 必要な節が必要量動く | 動きの配分が崩れない |
なぜ局所の介入が全身に響くのか(運動連鎖)
脊椎機能の改善が"痛い場所"だけに効くのではなく、別の部位の動きまで変わることがあります。
この考え方は「Regional Interdependence(離れた部位の機能障害が主訴に関与し得る)」として、特に胸椎への介入が首・上肢症状の臨床で語られてきた背景があります。
だからgiversは、「痛い場所=原因」と決め打ちせず、"動きの配分"の破綻点を探します。
giversメソッド:評価→介入→再評価
(脊椎機能改善版)
動作評価:まず「どこが止まり、どこが頑張りすぎているか」
- 頚部:回旋・伸展・屈曲
- 胸椎:伸展・回旋、肩甲帯の乗り方
- 腰部:前後屈・回旋、股関節との分担
- 日常動作:デスクワーク、歩行、抱っこ、車の運転など
局所評価:上部頚椎/胸椎/腰仙移行部の「相対的な硬さ」を特定
- 節ごとの動きのテスト("固い節"の同定)
- 筋緊張の左右差、関連痛のパターン
- 神経症状やレッドフラッグの除外(必要なら医療連携)
施術(低刺激から)
- MET(Muscle Energy Technique):患者さんの力を利用して関節・筋肉のバランスを整える
- モビリゼーション:関節包・滑りの再獲得を狙う
- Mulligan:動きと同時に関節の"通り道"を作る
- スラスト(HVLA):低刺激で残る機能制限に対して、適応・安全性が確認された場合のみ選択
重要:刺激量を"上げる"ことが正義ではありません。「必要部位に、必要量だけ」が原則です。
運動(再学習):機能配分を固定化する
施術で"動ける道"を作っても、運動制御が変わらなければ戻ります。
首の領域でも、施術+運動の組み合わせが重要という整理が繰り返し示されています。
再評価:同じ動作で「変化」と「再現性」を確認
- 可動域だけでなく
- 痛みの出方
- 代償(どこで頑張るか)
- 体の"抜け感"
を見て、次の手を最短化します。
頚椎への施術をどう扱うか(安全性について)
頚椎(特に上部頚椎)への施術は、稀だが重篤になり得る有害事象が議論される領域です。
血管への影響を評価してから施術に進むための枠組み(International IFOMPT Cervical Framework)が提示されています。
一方で、施術後の有害事象は多くが一過性・軽微とされ、重篤事象は稀で、因果関係の確定が難しい点も整理されています。
だからgiversは:
- 問診・リスク評価(疑わしければ医療へ)
- 説明と選択肢提示(共有意思決定)
- 低刺激から開始
- 頚椎への強い施術は"必要最小限"
を前提にします。
本ページの監修
安藝 泰弘修士(スポーツ健康科学)
株式会社givers 代表取締役CEO
東亜大学大学院にて修士号取得。肩甲骨の非対称性と肩こりの関係に関する研究でPLOS ONE(国際学術誌)に論文を掲載。全国160院以上・累計85万件以上の施術実績を持つgiversこころ整体院グループを統括。
よくある質問
Q
「脊椎の機能改善」=骨を矯正することですか?
いいえ。狙いは「骨を正しい位置に戻す」より、関節の動き(滑り・回旋・遊び)と、動きの配分を再構築することです。見た目の姿勢より、動作中に負担が偏らない状態を重視します。
Q
ボキボキ(スラスト)は必ずしますか?
必ずではありません。基本はMET・モビリゼーションなど低刺激から。スラストは、他の手段で機能制限が残り、かつ安全性と適応が確認できた場合の"選択肢"です。
Q
どのくらいで変わりますか?
その場で可動域や動作の軽さが変わることもありますが、戻りにくさは運動・生活調整が鍵です。単発介入より、運動・自己管理を含む複合的ケアが重要とされています。
Q
痛い場所を触らないことがあるのはなぜ?
痛い場所が「結果」で、原因が上部頚椎・胸椎・腰仙移行部など別の"配分破綻点"にあるケースがあるためです。
注意が必要な症状
次のような場合は、脊椎機能以外の要因が関与している可能性があります。無理をせず医療機関へ。
- 外傷後の強い痛み、発熱、原因不明の体重減少、がん既往
- 進行するしびれ・筋力低下、膀胱直腸障害
- 頚部:突然の激しい頭痛、めまい、発音/飲み込みの異常、視覚症状など(血管性の評価が優先)
参考文献
- World Health Organization. WHO guideline for non-surgical management of chronic primary low back pain in adults in primary and community care settings. Geneva: WHO; 2023. WHO Publications
- Blanpied PR, Gross AR, Elliott JM, et al. Neck Pain: Revision 2017. Clinical Practice Guidelines Linked to the International Classification of Functioning, Disability and Health From the Orthopaedic Section of the American Physical Therapy Association. J Orthop Sports Phys Ther. 2017;47(7):A1-A83. doi:10.2519/jospt.2017.0302
- Reynolds B, Puentedura EJ, Gattie E, et al. Effectiveness of manual physical therapy for musculoskeletal disorders of the upper and lower cervical spine: an umbrella review. J Man Manip Ther. 2022;30(4):196-213. doi:10.1080/10669817.2022.2039559
- Tsegay GS, Beyene BT, Teferi MM, et al. The effect of thoracic spine manipulation on neck pain: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Musculoskelet Disord. 2023;24(1):437. doi:10.1186/s12891-023-06559-4
- Biller J, Sacco RL, Albuquerque FC, et al. Cervical arterial dissections and association with cervical manipulative therapy: a statement for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke. 2014;45(10):3155-3174. doi:10.1161/STR.0000000000000016
- Scholten-Peeters GGM, Rushton A, Falla D, et al. The International IFOMPT Cervical Framework: an evidence-informed clinical reasoning and decision-making model for cervical spine assessment and management. J Orthop Sports Phys Ther. 2023;53(10):581-597. doi:10.2519/jospt.2023.12047
- Kiapour A, Joukar A, Elgafy H, et al. Biomechanics of the sacroiliac joint: anatomy, function, biomechanics, sexual dimorphism, and causes of pain. Int J Spine Surg. 2020;14(Suppl 1):S1-S10. doi:10.14444/6077